2015-06-28

読書感想文 「レジリエンスの教科書 逆境をはね返す世界最強トレーニング」

■どうして本書を手にとったか


おれは、生業としてITコンサルをしていて、あそびで絵を描いたり曲を作っています。平日は仕事が終わってから、数時間あそぶ時間を確保する毎日。仕事をきちんと終えて頭を切り替えたい。けれど先週は、何度かストレスを引きずることがあった。

自他ともにストレス耐性は高いと認めるおれだが、苦手なタイプのストレスがかかっているんだろう、と感じ、「自己啓発書で読みやすいけれど、ある程度、体系的にまとめられている本」がほしかった。

こんなニーズには魅力的な表紙。



レジリエンスの教科書 逆境をはね返す世界最強トレーニング

以下、おれの読書感想文です。

■レジリエンス・スキルとは

「レジリエント」とは、ストレスや逆境にうまく対処して再起できる状態。
「レジリエンス・スキル」とは、今の自分の対処や考え方の理由に気づき、
よりレジリエントになるための手段で、本書では7つ紹介されている。

このスキルを身につけると、「自分の『皮』が厚くなったような感覚」になるらしい。宮台真司さんがよく言う「ベタに反応しない「「出来事や人の言動に一喜一憂しない」状態に近いのかな、という印象。

■思いこみや、思考の癖に気づく

「わたしたちは、ある出来事が起こった時、出来事そのものに反応するのではなくて、瞬間的に起こった解釈/思考に対して反応している。この解釈/思考には、人それぞれ思いこみや癖がある」
「ストレスを感じた時、思いこみや思考の癖によって解釈/思考が歪んでいないかチェックしよう」
というのが、おれの受け取った本書のメッセージ。

こんなことをノートに書きながら読むと、面白かった。
・自分がストレスを感じた時の思考の癖
・思考の癖の根本にある、一番こわいこと
・それによって起こす反応の癖

おれにとって、一番こわいことは「自分が受容されていない」こと。
何かストレスを感じると、
(A) こうなったのは、少なくとも一部は自分のせいだ
(B) 相手の言動は、(自分だったら)ネガティブな意味だ
と瞬間的に思う。それぞれ、少し大げさなのだ。

(A)は、おれは自己効力感が多少高いので、自分のコントロールの及ばないことについても「何かできたはず」と思いがちだ。
(B)は、こんなこと言うの恥ずかしいのだけれど、こどもの頃に言葉づかいや振る舞いをお行儀よく躾けられたおかげで過敏なのだ。周りの人がちょっとマナーが悪いだけで、直接的な不快感の表現や「自分が軽視されている」表れとして受け取ってしまう。

(余談)思考の癖に潜む「自分の一番こわいこと」って面白い。立川談志さんが「饅頭怖い」に絡ませるのを妄想した。

■事例はちょっと退屈。退屈と感じるのも「思考の癖」

本書の後半は、気づきをもたらす分析の方法と事例が並べられている。事例は、退屈で読み飛ばした。「アメリカの、こどものいる共働き夫婦の女性」ケースが多い印象であまり身につまされなかった。
(余談)そういえばこういう本の事例って男性が多いから、女性読者はいつも「身につまされない」と思ってるんだな。

「最近は仕事が忙しくて、家族と過ごす時間が持てない。8時半に家を出て、家路に着いたのは18時をまわっていた。もうこんな生活が何週間も続いている」みたいなのを読むと、日本で仕事するおれはイラッとさえきた。どんだけか時間の使い方ヘタなんじゃ!と。

 何にストレスを感じるか、ってのも社会や文化に依存していてまさに「思いこみや思考の癖」なんだな、と思う。「仕事が18時に終わる」のが「遅い」と思いこむか「早い」と思いこむかでストレスとして感じるか否かが変わる。

 さらに言うと「自分からみたら楽な仕事に、不平を言っているアメリカ人女性」にイラッときたおれにも、思いこみや思考の癖がある。人種だとか性別に対する偏見がちょっと混じっている。自分の偏狭さが怖いのでここでは掘り下げないけれど、リベラルでいたいとは思うものの、難しいね。

■RQテストの前提に疑問

 本書には、レジリエント度を測る「RQテスト」がついているのだが、これに疑問がある。自己申告制の、相対評価なのだ。

自己申告制というのは、「あなたは明るい性格ですか?」という質問に「はい」と答えると、テスト結果に「あなたは明るい性格ですね」と出てくるタイプの心理テストだ。

「社会的に成功している人ほど得点が高い」という一応の統計的な裏はとってあるそうだ。
だが、レジリエントの「自分の解釈/思考に癖や歪みがある」という主旨と、自己申告制でレジリエント度を測るテストは、そぐわないように思う。

また、相対評価のテストなので、多くの読者は平均点に収まるだろう。読者としては、ほんとうに、つまらない。自分が平均的で平凡な存在であるという事実は。
心理テストを受けるからには、「えっおれ、こんな特徴が?」と騒ぎたいのが人情。

また、このテストで得点の高い人って、ほんとうに幸せな人だろうか。一緒にいて楽しい人だろうか。だって、自己申告制なんだよ。
自分で自分のことを「明るくて、事実を歪めず正しく認知し、自己効力感が高く、人の気持ちがよくわかって、感情や衝動を抑えることができる」って評価してる人、おれは苦手だな。もっと言うと「そんな人になりたいとは思わない。つまらなそうだから」。

このテストが前提にしている「社会的な成功」って何だろう?

■まとめ、期待は満たされたか

期待は、70%満たされた。体系的に書かれているので、読み進めながら自分のことをノートに書いていくと自分の癖に気づき、面白かった。実際に感じていたストレスそのものが軽減されたわけではないけれど、自分が感じている不快感の理由やメカニズムが多少わかると、心理的な負担は軽くなるものです。

翻訳書だけど、読みやすい。訳者の宇野カオリさんもペンシルバニア大学での研究に携わった方らしく、内容を熟知されている方の翻訳はありがたかったです。



レジリエンスの教科書 逆境をはね返す世界最強トレーニング

カレン・ライビッチ、アンドリュー・シャテー著
宇野カオリ訳
草思社