2016-02-20

回転寿司は醤油とワサビを運ぶメディアだ。

 家の近所に、家族連れで賑わっている回転寿司がある。夕方には駐車場はいっぱいで、店外に並んでいる人の姿も多い。夜遅く、日付が変わる直前まで開いている。おれは夜中まで食事をとり損ねた時に時々行く。閉店間際。行列はないがテーブルはほとんど埋まっている。繁盛店だ。

 この回転寿司は安い。値段が安いと、食品の安全性や添加物が心配になるが、この店は食品添加物不使用を売りにしていて、別の「安い理由」がはっきりしているのが安心材料だ。

人件費だ。握りが雑。ネタの切り方が雑。盛りが雑。寿司が倒れていたり、崩れている。店内のアルバイト募集の貼紙に堂々と「機械が握るので、誰にでもできる」と謳っている。ふつうならマイナス要因となる、これらの特徴が「だから安いのね」と安心して食べられる材料になるのには驚いた。もちろん、寿司と回転寿司を別の食べ物とする場合に、ね。ラーメンとインスタントラーメンのように。

 現代の寿司は板前さんの芸術、現代の回転寿司はファーストフードなのだ。もしかしたら、回転寿司のほうが、もともとの江戸時代の寿司の地位に近いかもしれない。回転寿司がファーストフードたりうる理由、安い回転寿司も美味しくいただけるのは、回転寿司は醤油とワサビを運ぶメディアだからだ。

おれの舌は、醤油とワサビを渇望していて、それを運んでくれるのが回転寿司だ。メディアそのものは、ある程度何でもいいのだ。極端な話、指につけてしゃぶってもいい。

あの回転寿司は、なかなかいい醤油とワサビを使っている。だから、確信犯だ。