日本に数年間滞在し、弓道に打ち込んだドイツ人の筆者が、武道の根底にある禅の思想を見い出し、とまどいながら理解を深めていく体験を書いた本だ。
語り手が、弓道の達人、禅宗の僧でないところが本書の特徴だ。シャーロック・ホームズではなく、ワトソンの視点から描かれるのに似ている。そこが、初学者にとってはわかりやすい。また、外国人が日本文化に高い精神性を見い出し、それを理解するプロセスは、日本人のおれにとって体験のできないことなので新鮮に感じた。
筆者が弓道を体得するうえでの悩みも真摯に書かれている。
筆者が一時期、弓道に悩む。その頃、師匠は「弟子にとってわかりやすい説明は何か」と、筆者の専門の哲学書を開く。結果「こんな小難しい本を読む奴には、弓道は身につかん」と放り投げた。このことを、筆者は後から聞いたらしい。これには笑ってしまった。
ただし、この本では憧憬されている「日本文化の高い精神性」の嫌な面、弊害を、日本人のおれは知っている。すぐに不要なところでも精神論を持ち出すのだ。
- 時給で雇ったアルバイトに「真心をこめたサービス」を求める経営者
- 数百円しか支払わない店で、サービスに文句をつける「お客様」
- 職人技至上主義
- やたら「生き様」を演出して切り売りするJ-POP
- 味は大したことないのに、「こだわり」の主張がうるさいラーメン屋
邦訳は何種類かあるが、福村出版のが、おれには読みやすかった。
オイゲン・ヘリゲル 著
稲富 栄次郎、上田 武 訳
「弓と禅」
福村出版