2016-05-08

就活中の、おれに告ぐ

 リクルーターとして、学生と会ってきた。自分に似た学生がいたら伝えたい事がいくつかあるので書いてみる。また、人との出会い全般に通じる気づきも得た。

■おれは生業として、IT企業で働いている。

うちの会社は、必要最低限の事務以外の間接部門を持たない。だから採用活動も現場の人間がやる。(これは、うちの会社の好きなところのひとつだ)おれはまだ社歴が浅いのだけれど、最近、採用人数が増え手がまわらないのか、指名された。

居酒屋で待ち合わせて、3時間ほど喋ってきた。

■どんな仕事だって、真剣にやれば面白さや深みがある。

だから、適性の有無は、仕事のかっこいいところ、面白いところで判断すべきじゃない。仕事というのは、時間と労力と身体を切り売りして対価を得るのだから、少なからず「大変なところ」があるわけだ。その「大変なところ」は、職業や会社によって異なる。それが耐えられない仕事に就いてしまうのは、学生本人だけでなく、関係者全員にとって悲劇だ。

今回、学生と会うにあたって、仕事の地味なところや「痛い目みるとしたら、どんなところか」を
知ってもらうことが重要だと考えた。また、学生の話をまず聞いてから、うちの会社の長所と短所を半々で話すよう心がけた。

■まだ若いのに、「インターンやNPOで実績あげました」ってすごいな。

まず、一問一答のラリーをした。自己紹介とたわいのない世間話をしている間に、内容はなんでもよいので、カンタンに答えられる短い質問をたくさんする。学生がリラックスするだけでなく、学生の瞬発力も測ることができる。これは、おれの憧れのオジサンがやってたルーティーンだ。

それから、就職活動の忙しさや、アルバイトのことを喋った。学生は、会話のなかで自己PRを挟むのが上手い。そして、内容はすごい。「NPOで〇〇リーダーの活動をしていて、〇〇な人たちを支援しています」「インターンでベンチャー企業の〇〇部門を任され、業務改革をしました」なんて、いきなりセミプロ社会人みたいだ。

うちの会社を受ける新卒って、おれと違って優秀なんだなあ、という感想だ。

■でも、残念ながら、用意してきた自己PRって、相手にまったく届かない。

自己PRをする側、受ける側、両方を体験して再認識した。自己PRは、「What To SpeakよりHow To Speak」だ。学生が用意してきた自己PRは、「前座の下手な落語」だ。手慣れていて流暢だが、何にも頭にイメージを結ばない。自己PRに省略やデフォルメはあって当然なので、事実は正直どうかわからない。となると、話す時の表情や熱量、とっさの質問への回答しか見ない。

異性を口説く時も、口説かれる時もそうだ。ああ、この人、準備してきたセリフを読みだしたって気づくものだ。今、この瞬間、おれとコミュニケーションしてるんじゃないって。口説き、口説かれる場合は「それでも敢えて試してみるか」と乗っかってみる事はあるかもしれない。でも、就職、採用の場面でそんなギャンブルしたくない。

実際に今回会った学生の場合、NPOの話より、居酒屋バイトの楽しさを語ってくれた時のほうが
学生の仕事観や特徴が垣間見えて、印象が残った。

■学生は、妙に具体的に、やりたいことを語る。

「インターンで実績をあげた〇〇の分野をやりたい」
「NPO活動で行った国の人と〇〇するプロジェクトをしたい」

 夢は、経験に規定される。たった20年ちょっとの経験のなかから、やりたいことが見つかるって素晴らしい。その基になっている経験も、おれなんかより、ずっとすごい。

■でも、まだ若いくせに、過去の成功体験にしがみつき過ぎだ。

 もし、ほんとうに「やりたいこと」が具体的に絞られているのなら、企業に就職するのではなく、起業すべきだ。あなたが好きな企業に就職できたとしても、多くの場合、志望どおりの部署、プロジェクトに就けるとは限らない。その時に、あなたのモチベーションは維持できるの?じゃあ、あなたの「やりたいこと」って何だったの?

もっと言うと「やりたいこと」をモチベーションに仕事をするんじゃない。それは、夢を食いつぶす恐れがある。あなたにとって「労力の割に人が喜んでくれる事」を仕事にするとよい。そうすると、仕事を考える時に目を向けるべきなのは、「周囲の人が、あなたにどんな価値を感じたか」だ。

過去の成功体験の側にいつもある、周囲の評価だ。過去の成功体験そのものじゃない。

■即戦力を求める企業には、入るな。

 採用する企業側にも問題がある。「即戦力を求める」とのたまう企業や先輩社員だ。類義語として「若くても大きな仕事を任せる」がある。日本語に訳すと「私には育成する能力はありません」という意味だ。

 学生の延長線で即戦力になれる仕事なんて、どこにあるんだ。もしあったとしたら、数年後には他社に追い越されているだろう。

企業に入る、ってことは「自分の枠を超えたことをさせられる」って事だ。できなかったことができるようになる。その企業に入らなかったら積めない経験ができる。

自分のサイズと、仕事のサイズは一致しない。月々数万円の小遣いをヤリクリしている部長が、数十億円のプロジェクトを動かすのだ。昨晩、配偶者とケンカをしたリーダーが、百人単位のチームをまとめるのだ。部屋をきれいに片づけられないあなたが、社会に影響をもたらす仕事をするのだ。

学生の延長線で「即戦力」になれる仕事は、自分のサイズと仕事のサイズが変わらない、ということだ。それは、つまらない。

■就活中の、おれに告ぐ

仕事を選ぶうえでの最低条件は、少ない。
  • 労力に見合ったお金がもらえること
  • 健康を害さないこと
  • あなたが繰り返しやっても苦にならないこと
  • 法律を犯さないこと
これだけ満たせれば、ハズレはない。

もし、結果的に仕事を辞めることになっても「これは違う」とわかっただけで儲けものだ。きっと、あなたは仕事に就いて、しばらくすると「辞めようかな」と頭をよぎる。すぐに判断してはいけない。あなたは不確定な存在で、常に変化しているからだ。3年くらいかけないと、判断がつかないものだ。