2017-05-30

新文芸坐から帰る時、左右を見渡す。




 新文芸坐から帰る時、左右を見渡す。おれは、安上がりな男だな、と思う。夜遊びの種類はたくさんある。それなのに、おれは入場料1,000円ちょっとで幸せになれる。


 新文芸坐は、入場料の一番安い天国だ。

しかも2時間で現実に引き戻してくれる。

2017-05-29

貴方はもう二度と、彼女とすれ違うことはない。

 

街に住む人間の行動範囲なんて、たかが知れているものだ。よく使うバス停、駅。そんなもの、たかが両手に収まる数しかないだろう。それを利用する時間帯も似通っているはずだ。

それでも、どこに行ってもヒトゴミがある。ヒトゴミというひどい名称がつくぐらい、人を人とも思えない物体として、そこにある。人として認知するに及ばない、物体。

よくもまあ、これだけ見覚えのない人とすれ違うもんだ、と思う。



オスに生まれるとは情けないもので、綺麗な女性や優しそうな女性を見ると目がいってしまうものだ。ヒトゴミの中でもそう。すれ違いに、綺麗な人だな、とかどんな人なんだろう、って思う。

それでも不思議なことに、後からまったく思い出せないんだなあ。オスの多情は刹那なのか、美人は印象に残らない。繰り返し思い出すのは、顔面に特徴のある、言い換えれば少しブチャイクなひとのことなのだ。



だから、鏡を見て落ち込んでいる女性がいたら、おれの代わりに「それがいいんだよ!」と言ってやってくれ。少しばかりブチャイクだからこそ、オスの気を惹くのだ、と。そんでもって、美人に見える角度とか瞬間にオスは興奮するし、記憶に残るし、愛着が湧くのだ。



とは言っても、「他人から、こう見えているにちがいない」って見ることができるのは、自分だけ。人間に生まれた以上、自分の視線に苦しめられるのは、いたしかたないのかもね。ガマの油。


それに、コンプレックスを感じている人の姿はキュート。電車の中で化粧している女性を見ると、おれは得した気分になる。


「ああ、ショボくれた目がコンプレックスなんだ」とか
「唇の薄いの気にしてるんだ」とか
「ニキビ跡が気になるんだ」とか、わかるから。


電車で化粧している本人は「こいつらに見せる為の化粧じゃないから」と思っているのかも知れないけれど、好きな異性の前でこそ、コンプレックスを表明したほうがいいと思う。そっちの方が、気を惹くぞ。

桜の公園

ピンクのじゅうたん




2017-05-27

工事現場に、たばことライターが落ちていた。

 工事現場に、たばことライターが落ちていた。


置き忘れたというより、放物線を描いて落ちたのだろう。たばこが何本か出ている。胸ポケットからか。

 作業員のケンカ。先輩が、新入りの胸ぐらをつかみ「オイ、もういっぺん言ってみろ!」「うるせえなあ」新入りが先輩の腕を払いのけると、先輩はバランスを崩し、倒れる。

ちょうど置いてあった木材に当たり、先輩が身体を歪める。胸ポケットからたばこがこぼれる。

「おい、何してんだ!」現場監督が駆け寄り、先輩のほうを抱え起こす。「お、折れてる!病院連れてけ!」と現場監督が怒鳴る。

新入りは茫然と立ち尽くして、自分の身を案ずる。慰謝料とか、この仕事もクビだろうし、金がいるな、と思う。腹をくくった・・・



 いや、よい想像をしよう。新入りが最後まで残り、工事現場の整頓をしている。工具や資材にブルーシートをかけ、木材で押さえる。

ひと段落して一服しようと胸ポケットに右手を伸ばした時に着信。

「生まれたって?!今、行く!」勢い余ってたばこを放り投げてしまう。男は車に飛び乗り、エンジンの音。

2017-05-20

リンゴNo.3

 リンゴNo.3という変な曲をsoundcloudに載せたので聴いてください。
今日は、先週書いた文章を推敲。だんだん良くなる。



曲名:リンゴNo.3  RINGO No.3
演奏:ポンコツ PONKOTZ
作詞作曲:黒石三太 Santa Claus

詞:
だれもかれも りんご赤いと
サクリサクリ 白い実を食べてる

いろはにほへと まなこ赤いと
触れる濡れる  甘い根が勃ってる

まっぱだかな からだ まっただなかなら
だったら まだまだ あったかなかなか

ぼくはすきな  果物あるのに
ぼくはきらいな 野菜を食べてる

苦くて辛くて   まなこ濡れるのに
吐き気がひどくて 辛くて横になる

まっぱだかな からだ まっただなかなら
だったら まだまだ あったかなかなか

どんちほうて

 とある、おじいさんの噺。

2017-05-13

立入禁止の看板が錆びている。



 立入禁止の看板が錆びている。ずいぶんと長い間、人が立ち入っていない、ということだ。ゼロではないんだろう。管理人はいるのだろうから。でも、看板を隔ててコチラ側は人通りは多いのに、アチラ側には人がいない時間が随分とある。

人間が誰もいない空間。ある意味、無人島だ。もし、おれが人間以外の動物なら、そこに逃げこむだろう。いや、動物には限らない。人間以外の何者かにとっては、絶好の住処だ。理屈とルールにうるさい人間から離れて暮らすには、人間が理屈とルールで区切った立入禁止区間が楽園なのだ。