2017-05-29

貴方はもう二度と、彼女とすれ違うことはない。

 

街に住む人間の行動範囲なんて、たかが知れているものだ。よく使うバス停、駅。そんなもの、たかが両手に収まる数しかないだろう。それを利用する時間帯も似通っているはずだ。

それでも、どこに行ってもヒトゴミがある。ヒトゴミというひどい名称がつくぐらい、人を人とも思えない物体として、そこにある。人として認知するに及ばない、物体。

よくもまあ、これだけ見覚えのない人とすれ違うもんだ、と思う。



オスに生まれるとは情けないもので、綺麗な女性や優しそうな女性を見ると目がいってしまうものだ。ヒトゴミの中でもそう。すれ違いに、綺麗な人だな、とかどんな人なんだろう、って思う。

それでも不思議なことに、後からまったく思い出せないんだなあ。オスの多情は刹那なのか、美人は印象に残らない。繰り返し思い出すのは、顔面に特徴のある、言い換えれば少しブチャイクなひとのことなのだ。



だから、鏡を見て落ち込んでいる女性がいたら、おれの代わりに「それがいいんだよ!」と言ってやってくれ。少しばかりブチャイクだからこそ、オスの気を惹くのだ、と。そんでもって、美人に見える角度とか瞬間にオスは興奮するし、記憶に残るし、愛着が湧くのだ。



とは言っても、「他人から、こう見えているにちがいない」って見ることができるのは、自分だけ。人間に生まれた以上、自分の視線に苦しめられるのは、いたしかたないのかもね。ガマの油。


それに、コンプレックスを感じている人の姿はキュート。電車の中で化粧している女性を見ると、おれは得した気分になる。


「ああ、ショボくれた目がコンプレックスなんだ」とか
「唇の薄いの気にしてるんだ」とか
「ニキビ跡が気になるんだ」とか、わかるから。


電車で化粧している本人は「こいつらに見せる為の化粧じゃないから」と思っているのかも知れないけれど、好きな異性の前でこそ、コンプレックスを表明したほうがいいと思う。そっちの方が、気を惹くぞ。