工事現場に、たばことライターが落ちていた。
置き忘れたというより、放物線を描いて落ちたのだろう。たばこが何本か出ている。胸ポケットからか。
作業員のケンカ。先輩が、新入りの胸ぐらをつかみ「オイ、もういっぺん言ってみろ!」「うるせえなあ」新入りが先輩の腕を払いのけると、先輩はバランスを崩し、倒れる。
ちょうど置いてあった木材に当たり、先輩が身体を歪める。胸ポケットからたばこがこぼれる。
「おい、何してんだ!」現場監督が駆け寄り、先輩のほうを抱え起こす。「お、折れてる!病院連れてけ!」と現場監督が怒鳴る。
新入りは茫然と立ち尽くして、自分の身を案ずる。慰謝料とか、この仕事もクビだろうし、金がいるな、と思う。腹をくくった・・・
いや、よい想像をしよう。新入りが最後まで残り、工事現場の整頓をしている。工具や資材にブルーシートをかけ、木材で押さえる。
ひと段落して一服しようと胸ポケットに右手を伸ばした時に着信。
「生まれたって?!今、行く!」勢い余ってたばこを放り投げてしまう。男は車に飛び乗り、エンジンの音。