2015-10-04

Apple Musicと、サジェスト/リコメンドの限界

■Apple Musicの試用期間がそろそろ終わる


継続しようか、悩み始めた人は多いんじゃないか。
おれは醍醐味を享受していないので、継続しない、という気分。自分のライブラリに溜めたロスレス音源が圧縮音源にダウングレードしてしまう点がいやなので、最大限の利用はしていないのだ。

もちろんappleの「スマホで聴く程度なら多少ビットレート低くてもわかんないでしょ」という思想にはうなずいてしまうが、気持ちの問題で、好きなものはたとえわからなくても、できる限り良い状態で味わい。
でも、Apple Musicを使わない場合のiPhoneミュージックの使い勝手は不安なので、心変わりしてApple Music継続するかも。


■1か月ほど前に、母のiPhoneにApple Musicを設定した


歳をとって、あまり積極的に聴かなくなったが、母は音楽が好きなほうだ。10-20年くらい前は、おれのケミカル・ブラザーズやプライマル・スクリームのCDを借りて居間で聴いていたり、若いころはバイトでDJの真似事もしていたらしい。

最近はCDやレコードを引っ張りだすのが面倒だろうと、帰省した時に「ラジオ代わりに使ってはどう?」と提案した。


■「サジェスト/リコメンド機能」は的外れ


 Apple Musicは、最初の設定で、好きな音楽ジャンルを選択させる。それから、そのジャンルのなかで特徴的なアーティストの好き嫌いを選択させる。これで大まかな好みを把握する。

母は「ロックや、ジャズとかR&Bが好きだわ。歌謡曲やポップスなんかはいまいち」とジャンルを選択したのだが、その後に出てくるアーティストは「誰これ、全然知らない人ばっか!」だった。その後にかかった曲も、聴いたことがないだけでなくチンプンカンプンで、良さが理解できなかったらしい。

母の言う好みとは真逆に、歌謡曲とポップスを選択すると、ようやく母の知っている名前が出てきたのだが、母は苦い顔をしていた。


■「わたしが好きだ」と認識しているものと、実際にわたしが好きなものは違う


母は「自分はジャズとかR&Bが好き」と認識していたが、実際はよく聴くわけではない。意地悪な言い方をすると、「お洒落な音楽を聴く自分」というセルフ・イメージと実際の行動が一致していない。

これはよくあることで、おれは自分で「ブルーズが好き」と認識しているが、アルバムを通して聴くと「全部、おんなじ曲じゃん」と退屈に思ったり、マジック・サムとマジック・スリムとメンフィス・スリムの区別がつかなかったりする。

「この喫茶店は美味しいし居心地がよくて好きだ」と思っていたのに、アルバイトが入れ替わると足が遠のき、実は「美人店員が好き」なだけだったと気づく。

「趣味は人間観察です」という女性は多いが、実際に観察している人は少なくて、「わたしは周りに溶け込めないのではなくて、一歩ひいたところから観察しているんだ」というメッセージを自分や他人に言い聞かせようとしている人が多い。


■「サジェスト/リコメンド機能」の難しさ


 「わたしが好きだ」と認識しているものと、実際にわたしが好きなものは違う、という前提にたつと、ユーザが自称する「好きなもの」はあてにならない。

あてになるのは、実際の購入履歴などの行動だ。かと言って、本人がそう自認しないこともある。たとえば、歌謡曲のCDをサジェスト、リコメンドしても、母は買わないだろう。
「わたしはそんなもの好きじゃない」と思うからだ。

もしかしたら、そう言う母のCDラックには既に入っているかもしれない。(「もう持っている」) そんな時、人は苦い顔をするのだ。そして、そんなサジェストをしてきたサービスを、少し嫌いになるのだ。