お客様の言葉には応えているのに、お客様のためになっていないのだ。
■寓話
お客様が、
「向こう岸に行きたいから、早く川の水をバケツで汲み出してくれ」と言う。
上司が「上流をせきとめましょうか」
先輩が「橋をわたしましょうか」
おれは「舟を作りましょうか」
と提案するが、お客様は
と言う。
上司と先輩は優秀なのでバケツ捌きが上手い。
おれは遅い。それに、要領が悪い。
「ほんとうに、バケツで汲み出せるんですか」
上司と先輩は「何をいまさら。それが前提だ」と答える。
「その前提は正しいんですか。誰か確かめたんですか」
「お客様が、そう言っているんだ」と、上司がいやな顔をする。
もう何も、聞くことはない。
何日かたつと、お客様が
「水を汲み出すなら、ホースのほうが早いんじゃないか」
と言う。
「どうして、言われるまで気がつかないんだ」とイヤミを言われながら
上司と先輩がバケツを置いて、ホースを手に取る。
「なるほど、これはバケツより早い」
向こう岸はまだ、遠い。
ボーッとしているおれを、上司と先輩がバカにしたような目で見る。
明日の天気予報は、大雨だ。